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東京地方裁判所 平成6年(ワ)23563号 判決

原告

伊東秀雄

ほか一名

被告

田代喜之

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告らに対し、それぞれ金三一六七万九八二〇円及びこれに対する平成六年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告らは、各自、原告らに対し、それぞれ金五二九六万九五四四円及びこれに対する平成六年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 事故日時 平成六年四月一七日午後五時ころ

(二) 事故現場 千葉県成田市加良部六丁目四番地先交差点

(三) 近藤車 自動二輪車

運転者 被告近藤丈洋(当時一八歳、以下「被告近藤」という。)

(四) 田代車 普通乗用自動車

運転者 被告田代喜之(以下「被告田代」という。)

(五) 事故態様 被告近藤が、近藤車後部座席に訴外亡伊東直樹(当時一七歳、以下「直樹」という。)を同乗させ、近藤車を運転して直進中、対向進行してきて本件現場を右折してきた被告田代運転の田代車と衝突し、直樹が死亡した。

2  責任原因

(一) 被告近藤

被告近藤は、前方を注視して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて直進した過失により、本件事故を惹起したのであるから、民法七〇九条により、損害を賠償する責任を負う。

(二) 被告田代

被告田代は、右折に際し、対向車の動静を注視し、その安全を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて右折した過失により、本件事故を惹起したのであるから、民法七〇九条により、かつ、被告田代は、田代車の保有者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、損害を賠償する責任を負う。

3  相続

原告らは、直樹の両親であり、唯一の相続人であつて、各二分の一ずつ、直樹の損害賠償請求権を相続した。

二  争点

被告近藤は、本件事故当日、直樹が被告近藤方を訪れ、直樹の誘いで、近藤車で友人の訴外佐々木方まで向かう途中に本件事故が起こつたものであり、好意同乗者として損害額を減殺すべきであると主張している。

また、被告田代は、被告近藤は運転免許取得後一年未満であり、道路交通法七一条の四第四項に違反して直樹を同乗させているところ、直樹は、被告近藤と共に違反行為を行つたものであり、このような危険な行為を自ら行つたものであるから好意同乗者として損害額を減殺すべきであると主張している。

第三  争点に対する判断

争いのない事実の外、乙一ないし一六、原告伊東秀雄本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、被告近藤と直樹は高校の同級生で、これまでにも直樹は被告近藤の運転で近藤車の後部座席に同乗して、ドライブなどに出かけていたこと、本件事故当日、直樹が被告近藤方を訪れ、両名は被告近藤方で遊んでいたところ、直樹の誘いで、友人の訴外佐々木方に向かうことになり、近藤車の後部座席に直樹が同乗し、被告近藤が近藤車を運転して訴外佐々木方に向かい、その途中に本件事故が起こつたことが認められる。これによれば、直樹は、近藤車の後部座席に自発的に乗車し、本件事故に遭遇したことが認められるが、直樹が、本件事故に繋がるような無謀な運転を誘発したり、容認していたような事情は認められず、本件においては、好意同乗者であるとして損害額を減殺することは相当ではない。

次に、被告近藤に道路交通法七一条の四第四項違反の事実が認められるにしても、右規定は、運転者である被告近藤に科せられる義務であるから、この事実だけをもつて、被害者及び原告らの損害額を減殺すべきであるとは認められない。また、直樹が被告近藤の右違反の事実を知つていたとしても、本件では、右違反事実が本件事故の発生に影響を与えたとは証拠上認められず、前記のとおり、直樹が、本件事故に繋がるような無謀な運転を誘発したり、容認していたような事情は認められないのであるから、いずれにしても、道路交通法七一条の四第四項違反の事実が認められるとして損害額を減殺することも相当ではない。

第四  損害額の算定

一  直樹の損害

1  治療費 一九万三七四五円

甲五の一及び二、六の一及び二並びに弁論の全趣旨によれば、直樹は、本件事故後、成田赤十字院に二日間入院し、その治療費として右金額を要したことが認められる。

2  逸失利益 四五三六万五八九六円

直樹は、高校三年在学中の一七歳の男子であつたところ、証拠上認められる直樹の家庭環境、学業成績等から鑑みて、直樹が、平成七年三月に同高校を卒業することが確実に見込めたから、直樹は、一八歳以降、将来にわたつて、賃金センサス平成六年第一巻第一表企業規模計男子高卒全齢平均の収入五二四万三四〇〇円を下らない収入を得ることができるものと推認するのが合理的である。

原告らは、直樹は大学に進学することが確実であつたから、賃金センサス企業規模計男子新大卒全齢平均の収入を基礎に逸失利益を算出すべきであると主張する。原告伊東秀雄本人尋問の結果等によれば、直樹が、その家庭環境等に鑑みて、大学に進学する可能性が認められることは否定できないが、本件時高校生であつた直樹の、大学への進学、卒業のいずれの点においても、不確実な点が認められ、直樹が大学に進学、卒業すること、さらには、いつ進学し、いつ卒業するかという点が、損害賠償として容認できる程度にまで確実であるとは、証拠上認めることができない。したがつて、本件では、直樹の逸失利益の算出にあたつて、賃金センサス企業規模計男子新大卒全齢平均の収入を基礎とすることはできない。

以上のとおり、直樹の逸失利益は、右の五二四万三四〇〇円に、生活費を五〇パーセント控除し、一七歳から六七歳まで五〇年間のライプニツツ係数一八・二五六から、一七歳から一八歳まで一年間のライプニツツ係数〇・九五二を減じた一七・三〇四を乗じた額である金四五三六万五八九六円と認められる。

524万3400円×0.5×17.304=4536万5896円

3  慰謝料 一六〇〇万円

証拠上認められる諸事情に鑑みると、本件における直樹の慰謝料は一六〇〇万円が相当と認められる。

4  損害てん補 五四〇万円

当事者間に争いがない。

5  合計 五六一五万九六四一円

原告らは、二分の一ずつ相続したので、原告ら各人の損害額は、各金二八〇七万九八二〇円となる。

二  原告らの損害

1  葬儀費用 各六〇万円

甲によれば、葬儀費として七七〇万円を支出し、原告らはその内金二〇〇万円を請求しているが、本件と因果関係の認められる損害は一二〇万円と認めるのが相当であるところ、原告らが二分の一ずつを支出していると認められる。

2  慰謝料 各二〇〇万円

証拠上認められる諸事情に鑑みると、本件における原告ら固有の慰謝料は、各二〇〇万円が相当と認められる。

3  弁護士費用 各一〇〇万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、弁護士費用は、原告請求どおり、原告ら各人について各一〇〇万円の合計二〇〇万円と認められる。

4  合計 各三六〇万円

三  合計 各三一六七万九八二〇円

第五  以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告らに対し、各自、それぞれ、金三一六七万九八二〇円及びこれらに対する本件事故日である平成六年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余の請求は、いずれも理由がない。

(裁判官 堺充廣)

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